(変)全体の感想
初出 '99/05/23 08:33
'03/07/25 一部修正
「変身」は全体にレベルの高い一冊だと感じました。楽しんだお話が非常に多かった
のです。ご贔屓作品を選ぼうとするとほとんどの話が入ってしまいそうなくらいです。
今回はあえて少しでも印象の薄かったものから落として行くというやり方で選んでみま
した。
しかし一方で「これが一番」という首席が決め難くもありました。この書き込みのた
めに一通り見直してみて、「こんな鮮やかな話だったか」と認識を新たにした作品も多
いのですが。
考えてみると、前にこの巻を読んだ頃には、異形コレクションが今ほど巻を重ねるこ
とや、自分がここまではまりこむ事を予想していなかったのですね。と、言ってもほん
の一年ちょっと前の事なのですが。
あの頃は純真だった……えっ? いやいや;
以下、個人的趣味によるご贔屓作品です。
首席 「森の王」久美沙織
「変身」したのは父よりも母よりも、こまっしゃくれた少年だった「僕」自身なのかもしれない。
人狼の恋人達の姿が強く印象に残ってしまいました。「異形」だからというのではなく、ただ、幸福そうで。
次点 「ワルツ」牧野修
無粋な夢オチに落ちつきたがるのは「ウニカ」と名付けられた彼女だけではなく、読者もそうなのかもしれません。けれども夢で片付けるにはこの話で示されたヴィジョンは印象が強すぎる。グロテスクで陰惨にして耽美とでも言うか。
話が終わったとき、ディーヴァやヒダカの与えた城が全くの幻であったなどと、どうして納得できるか。でもどこへ消えてしまったのか、なんとか納得しようとすると、夢だったとでも思うしかできないか。
……ううん、わが身の無粋さが……
「痩身術」太田忠司
きれいにオチがついて、定石をきちんと踏んだ上で良くできた話。
そう簡単に変身はできないということでしょうか。しかし最後で、実は「変身」ではなかったわけですが。まあ、過程として「変貌」はしているからぎりぎり変身譚とも言えましょうか。
「姉が教えてくれた」菊地秀行
恋愛論にからんだ心理劇かと思ったら、最後で映像的にもホラーになってしまいました。
恋愛ってこんなもんなんだろうか、ううん。
佳作 「福助旅館」倉阪鬼一郎
客を福助にする装置。この話を読んだ後では福助のあの切れ長の目もなんだか怖くなってしまいます。
なんのために福助に? とか考えちゃいけないんでしょうね。
「きれいになった」中井紀夫
タイトルから連想される甘やかな物と内容のギャップがなんとも。
容姿が変わっても中味は変わらなかったということか、それだけの恨みがあったから変身にも成功したということか。
せっかく美人になったらもっと有効な使い方もあるような気がするけど、「魔女」と呼ばれるような人種とはこういうものでしょうか。
「闇の狭間」岬兄悟
最初の方を読んでいる時、このような変化は実は主人公の他にもそっちこっちで起きているのでは、と思ったのですが。「狭間」にいる彼の悪行のエスカレートに驚きました。
もしかすると沢山の人に潜在的にこういうモノになる可能性が。
(それにしてもどうして急に変化したまま「狭間」から出ちゃったんでしょうね)
「かみやしろのもり」加門七海
因習から妹を助け出そうとした兄もこの怪異には無力だったということか。蛇になった妹を拒絶しないでいられたなら、なにか変わっていたのでしょうか。
「コッコの宿」南條竹則
ほのぼのした鄙びた宿の情景と見えて、やはりホラーでしたね。せめても「ここの鶏はペット」で良かった。
「整髪」早見裕司
床屋というのは明るく爽やかな感じの店でもなんとなく怖い感じがしますね。歯医者との相似性のためか、それとも剃刀のせいか。
首筋にあてがわれたまますっぱり、という「こうなったら怖い」想像が、そのまま突き抜けて「実はもう切っちゃった」。
怖いのだけど、読後はむしろ爽快でした。
今気がついたのですが、私は主人公がアイデンティティが揺さぶられる話はほとんど評価してしまっているようです、どうやら。
「生まれし者」飯野文彦
これもアイデンティティを壊して見せる話ですね。妻どころか自分も蛇で、母親は父親を喰っていて、なんて事実を、結局受け入れてしまうのは、蛇としての本能の為せる業か。
それにしても、こういう事実はもっと小さい頃にちゃんと教えておこうよ、お母さん、と思ったことでした。余計なお世話?
「転身」安土萌
ホラーでは……ないんですよね。怖くもないし、奇妙でもない。このアンソロジーの中にあるから、そういう物を期待するバイアスがかかって読んでしまいますが。
でもこれも解きあかされない「この世の不思議」なのでしょう、子供から「少女」または「女」へ、いつ、何故、どうやって変化するのか、は。でもJの場合、本当はずっと前から「女の子」だったんでしょうね、髪が実は伸びていたことからしても。
「舞踏会の仮面」井上雅彦
ドレスアップした鼠の群れという設定には魅了されます。豪華絢爛な一編でした。
惜しむらくは終幕がちょっとあっけなかったような。あれだけの王国の終焉にしてはあまりに……彼等にとって峰子嬢は、東京をなぎたおすゴジラのように強大であったのでしょうか。
ああっ、ご贔屓が多くて大変大変;
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