(夢)ご贔屓作品と雑感

初出 '01/07/30 18:01
'02/03/13 一部修正


 寝苦しく魘されそうな夏の夜、皆様如何お過ごしでございましょうか。悪い夢でもご覧になっておいででしょうか。
 遅ればせながら、ようやく「夢魔」の感想を。

 夢といえば、とりとめがなくつじつまの合わないイメージの連続。
 と、いうのは予想していたのですが、それぞれは魅力的な奇妙なイメージも、とりとめがなさすぎると食傷するもんでございますね。ロールシャッハテストのように、意味のない物の並びを見せられると無理にでも意味をこじつけたくなるというか。
 足場を失ったような不安な印象を演出している話が多かったのですが、しかしいくつか「おお、これは」と感じさせられる作品にも出会えたので、結果的にはかなり満足しました。心に残った作品は、手出しのできない「夢」だけではなく、対比するべき「現実」や、夢に立ち向かう意志の力が描かれていたように思います。
 ただ、結果的として上位ご贔屓ラインナップに挙げた物を見ると、なんだか前の巻での掲載作も取り上げている作家さんが多いような。上手い人はどんなテーマでも巧妙に書くということか、あるいは特定の作家さんの作風が、私のツボにはまっているだけなのか。

 というところで、ご贔屓作品を上位5作です。

  ご贔屓の作品の順位 & [コメント]

1位 「怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男」平山夢明
 ををを、これも凄い。いきなり塩酸飲んで自殺する話から始まるし。掲載される度にこの方の作品を取り上げてますが、今回も痛い痛いグロい生臭い、しかし何とスタイリッシュな。
 陰惨なことを淡々と、眠りの中と現実の悪夢を行き来しつつ哀しくも厭な所へ収束する描き方に拍手。

2位 「偽悪天使」久美沙織
 この方は何を書いても巧いのでしょうか。我儘傲慢横暴奇矯でありながら、ナコ夫人のなんと可愛らしいこと。シュトロハイムといい井之上博士といい、あるいはミチオシエの集団といい、それぞれのキャラクターの雰囲気も魅力です。
 ところでこれはハッピーエンドなのでしょうか。

3位 「夢憑き」霜島ケイ
 集落の中で、誰か一人犠牲にして平穏と保つという状況の陰惨。飲み込んでも腹の中で鳴く「夢見サマ」、一見理性的だった学者の壊れていく様子に加え、血と火の粉に彩られた光景に魅せられる少女に悲哀を感じます。
 それともそれは不幸ではないのか。この子さえ封じればと罪悪感を押し殺す村人達の不幸を勝手に想像しただけなのか。

4位 「浮人形」江坂遊
 淡々と旧い伝承のように書いて、ちゃんとやりきれない哀しみへ落とす見事さ。新作書き下ろしとは信じ難いようなこなれた語りですね。

5位 「どっぺる・げんげる」五代ゆう
 夢うつつの再会の物語。小道具など細部の描写や、女の台詞などの醸し出す、ゆらゆらとした空気もよろしい。どうも私は五代氏の描くところの哀しい話に弱いです。

 ちなみに今回は敢えて次点を挙げると、
  「いかにして夢を見るか」牧野修
  「夢魔製造業者」菊地秀行
 の二作も上記作品群と競っていました。惜しいところです。
 とはいえ、おそらくこれらと上記五作との差は、純粋に私のツボを刺激したかどうか、だと思うのですが。

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