(船)雑感とご贔屓作品
初出 '01/06/05 17:42
'02/05/10 一部修正
感想文のアップが大変遅くなりました。下手をすると「夢魔」が出てしまう――いや、私が目撃していないだけでもう出ているのか?
ともあれ「幽霊船」の感想です。
なんか。今回は小粒だった気がするのですが。
いや作品の長さじゃなくって。
愉しまなかったか、というと愉しんだのですが。どうも何か足りないような感じが残ります。
大好きなホラーアンソロジーも、これだけ続くと読み手も擦れてしまっているのか。それとも本当に作品に何かが欠けているのか。
どちらに原因があるのかは分かりませんが、しばらく前に作品リストの改訂作業をした時のこと。(これが。この前のは途中で数が合わなくなり、ちょっと大変だったのです。全部ひっくり返してチェックしたり)
「そういえば、この巻の頃はもっとどきどきしながら読んでいたものだなあ」
などと思い出しました。
何か寂しい。年を取って鈍るってこういうことかしら。倦怠期ってこーゆー感じ?(って独りもんが何言ってんだか。いやでも猫は年を経てますます愛らしいし……?)
まあ、愚痴っぽくなってばかりいても仕方ないので。
この機会に、久しぶりに初期のラインナップを拾い読みなどして、失われかけた感受性を取り戻そうともすることであります。
あの幸福な感覚はきっとまだどこかに眠っていて、完全に失ったわけではない、と、信じたい。
「船」という今回のお題は非常に魅力的だと思ったのですが。
旅の足。海の彼方への憧憬。水の上の閉鎖空間。日常とは違う異界。揺れる空間、「板子一枚下は地獄」という危うさ。
子供の頃に読んだ、冒険小説の記憶を揺さぶられる所もあります。
しかし……蓋を開けてみると、意外に「幽霊船」「船幽霊」といった一番出やすいイメージで描かれた作品は少なかったような。既出の作品に充分描かれているから踏襲は危険だということ? それとも異形には 既に「水妖」という巻があるからでしょうか?
(「トロピカル」なんかもイメージがかぶりますかね)
でもこのテーマは、もっと色々つっこめる余地があるように思うのですが。「タイタニック」ならずとも、沈んでいく船の、逃げ場のない恐怖と諦念などを書いた作品があっても良かった、などと。(あーでも。宮沢賢治も使っちゃうくらいだしなー、迂闊に手を出せないのか)
というところで、ご贔屓作品を上位5作選んでみました。
ご贔屓の作品の順位 & [コメント]
1位 「右大臣の船」高瀬美恵
首のない亡者、という生臭いモチーフを哀しく描いているのに力を感じますね。あと、この方の描く子供はなんか魅力的です。ほのぼのと強く。
2位 「スローバラード」早見裕司
独特な言葉使いの力か、それとも文中に出てくる曲名などに、無意識に重ねてしまうイメージのせいか。(これは全く個人の経験によるので、ここに出てくる曲に特に思い入れのない人は、何も感じないかもしれないけど)
少年と少女のやるせなさと諦念と憧れをきれいに切り取ったスナップのような短編。
3位 「遺棄船」北原尚彦
マリー・セレスト号はこの巻の中で誰か書いて欲しいと思っていました。ををなるほどこんな解決が、と拍手。ことごとく思っていることの先を越される、という状況はコメディのようですが、噛みしめると重い悲劇ですな。もっと重く描いてもよかったかも。
4位 「海聲」石神茉莉
これもマリー・セレスト号ですな。
船の周りで乗客を呼び、死か狂気に引きずり込む人魚達。美しくも恐ろしい情景を、無垢な子供の目として淡々と描いている。
この恐ろしさも美しさも、実は私たちのすぐ隣にいるのだね、などと思ったり。
5位 「渡し船」菊地秀行
描かれている設定としては、この巻随一の酷さと哀しさであろうと思うのですが。何故かぴんとこない……見捨てられる子らの悲しみにもっと感情移入できてもいいのに、などと。
菊地秀行だけに余計に期待を掛けてしまったためか、私の感覚が鈍っているのか。
「幽霊船」データ

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