(恐)ご贔屓作品と雑感

初出 '02/06/27 02:35


 恐怖症とロードショーと総務省とクリープショーと豆腐ようくらい違う。
 ああなんか全然違う。そんなことはさておき。
 大変引っ張りましたが「恐怖症」感想文です。

 今回のお題は「Phobia」。
 何か特定の物に対する特別強い「恐怖」、ということですが、これはかなりバリエが広がるお題ではないでしょうか。
 仮に高所恐怖や不潔恐怖、先端恐怖など、どれか一つの同じ「恐怖」に対象を絞ったとしても、多様な書き方が見つかりそうな。
 考えてみると、感情そのもの(というか、それに付随する精神病理という「現象」なのでしょうが)がお題にされること自体珍しいかも。

 何が怖いか、どう怖いか、怖いせいでどうなるか、何を引き起こしてしまうか。そういった対象、状況、展開の組み合わせは無限に存在するでしょうが、たくさんありすぎて「物語」として削り出すとなると、かえって難しいかもしれません。
 原因も分からずやってくるどうしようもない「恐怖」は、精神的に鍛え上げた人間にもどうしても残る「弱点」というやつでしょう。対面し認識することである程度コントロール可能ではあるようですが(「恐怖病」の文中などでも語られていますね)ヒト自身の内側にありながら不可解なまま残る領域と言えましょう。

 今回の巻は、一冊を通してかなり愉しんだのですが。何か変だな、いう気がしたので考えてみると、読んだ私自身はあまり「怖い」と感じていなかったんですね。他人の恐怖は興味深く愉しんでしまえるものなのでしょうか。
 欲を言えば、もっと深く、もっとわかりにくい話が多くても良かったかもしれません。現と心の深層の間で引きずり回して放り出すような。

 そんなわけで今回のご贔屓作品五作は、そのなかでも「怖さ」を感じさせられた作品を中心に選ぶ形になりました。


  ご贔屓の作品の順位 & [コメント]

1位 「荒墟」朝松健
 今回ダントツのお気に入り。この酸鼻は。立て続けにこれでもかと押し寄せながら馴れさせもしない「厭」さは。これは凄い物を見せていただきました。

2位 「遠い」浅暮三文
 実験的手法にひっかかっているような気がして落ち着かないのですが、どんどん酷い目に遭いながらまだ行くか、まだ行くかという展開に圧倒されまして。
 ――その上、最後にこう来るか、と。

3位 「布」倉阪鬼一郎
 タイポグラフの類に弱い私。これも、手法に囚われて選んでないか? と気にはなったのですが……
 でも怖かったんですよう、頁一面に並んだ「ふ」。

4位 「怖いは狐」北野勇作
 何が怖いって情け容赦なく傘でつつく田崎が。
 主人公の正体はやっぱりそうなのか。でも説明なしで終わるこの形はいいですね。不条理の妙というか。

5位 「白い影」田中文雄
 中盤ちょっと冗長かな、という気もしつつ読んでいたのですが(自伝的小説だから説明が多かったのか)最後の「あなたは既にこちらの住人」に、怖くも哀しい――少し違うか、慕わしいというか諦念というか、説明しがたい感覚をおぼえたので。

 その他で、印象に残ったのは
  「黒い土の記憶」安土萌
  「夢の奈落」速瀬れい
  「スタジオ・フライト」早見裕司
  「スパゲッティー」竹河聖
 など。
 こうしてピックアップしてみると、意外に分かりやすい話も多いのが自分で不思議なのですが。収まりの良さと悪さと、両方ないと満足できないものでしょうか。


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