(教)ご贔屓作品と雑感

初出 '03/10/01 18:19


 教室と病室と硬質はちょっと似てるかも知れない。
 良質で飄逸だったらいいなと思う。横溢する物があってもよい。
 王室や祐筆や東密の、なんて場合もあるか。
 糖蜜や令室は流石に違うようだが。
 両立はできるのか。統一見解を求む。

 なんだかよく分からなくなりましたが、「教室」感想文です。

 一冊を通しての感想としては、どちらかというと地味めでした。前の巻の壮大な企画の反動かもしれませんが。
 まあ、目を開かれるような衝撃や血湧き肉踊る感覚とは違いますが、ゆっくり噛みしめる味わいのある作品がいくつかあったので、それなりに満足しました。一読で評価するよりも、時間が経ってからの再読の方が分かってくるものかもしれません。
 やはり学校という空間から離れた身には、「学舎」というものは朧気なノスタルジーの衣を纏ってしか現れ得ないものなのか。
 とはいえ大人になっても「習い事」その他のために、別の種類の「教室」にはまだ出入りの機会があるわけですけどね。あんまり良い学生ではないというのも関係があるのだろうか。

 そんなわけで今回のご贔屓作品五作をピックアップしてみました。


  ご贔屓の作品の順位 & [コメント]

1位 「必修科目」岡本賢一
 誰かがやってくれるのでは、と期待していたのですが。「試験に失敗する」という悪夢をこんな形で物語にしてくれるとは。身につまされる焦燥と。
 で、それが物語のメインかと思わせておいて、いざ念願の受講が叶った後の展開が驚き。巧い具合に読者の予想を裏切っておいて、サスペンスを感じさせながら、ラストはこう来るとは。
 こんなところから一気に「いい話」にしてしまうあたり、衝撃とともに嘆息。

2位 「あの日」小林泰三
 うわあ。馬鹿馬鹿しくもなんと秀逸なアイロニー。あの陰惨な事件をこんな形に料理して――と思えば、突然笑い事ではない事態になっている。
 「まず計算する」という著者ならではの作品と言えましょう。ううん、SF設定の考証で、その筋の(えーと、ハードSF物理系、という理解でよろしいかな?)やってることって、こういうことなんだろうか。

3位 「逃亡」菊地秀行
 本当に恐ろしいことは、慣れ親しんだ些細なことのような顔をしてやってくる。じわじわと取り囲まれる怖さ。
 余計な事かもしれませんが、どうも最近のご時世をみるに、何年か後には徴兵制なんてものが復活していそうで笑えないんですけどね。どんなに誠実そうに見えても六十代以上のタカ派の言うことは信用できませんぜ。どれだけ勇ましいこと言っても、結局自分は前線には立たないんだから。寿命の延びてる昨今、五十代なら出征の可能性も否定できないけど。

4位 「実験と被験と」平山夢明
 相変わらず生々しいです。怒りと哀しみが行き場を失うと、包丁でテーブルを刻むのか。驚きながらも一方では納得。よくテーブルが保ってたな、という気もしますが。
 いやそれよりも、実験が始まってから奥方が明るくなってくることのほうが厭か。散々責め立てられながら、それでも変わらずに被害者家族を嘲り罵る犯人も、それに負けず劣らず厭ですけども。
 その点では、終盤で明かされる設定にかえって衝撃を緩和されてしまう気もします。最後には目論見通り――というかそれ以上――の展開になったということは、彼は装置の中の「鴫澤」より随分まともな人だったのね、という気が。
 とはいえとは。なんか無意識にストッパーかかっちゃって、ラストの情景をあんまり詳細にイメージしていないのですが。ここは微に入り細に入り想像を逞しくして、厭感を味わい尽くすべきでしょうか。

5位 「帽子の男」浅暮三文
 わははははは! 思わず高笑い。やってくれますな。日頃よく見かけるあの方に、実はこんな生活があったとは。
 そうか。うーん、そんなこととは知らなかったなー、と感心することしきり。


 その他で、印象に残ったのは
  「すぎたに」平谷美樹 繰り返す現象の中に知らないうちに取り込まれるというのは、静かな怖さが。
  「海藍蛇」石神茉莉 ヒロインの慕情故の哀しみと腕輪の見せた幻影に心惹かれました。
 あとは、伊藤潤二氏の表紙絵・口絵と、高橋葉介氏のタイトル画かな。この巻もカバーなしでは人前で読めないです。

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