名   残


 はあ。いやもう今時の若いもんと来たら、ワシにはさっぱりわからんわ。
 何がわからんて? ああ、あんたもちょっと聞いとくれや。
 いやな。さっきまでここに、タミが来とったんだ。
 あんた覚えてるかなあ、タミのこと。うんそう、うちの末の妹んとこの。ガキの頃はそりゃ悪さして、警察のご厄介になったりそら大変だったんだが、ワシには不思議と懐いとってな。昔っからたまぁにふらっとうちに来るもんで、そのたんびにワシも話聞いてやったり、色々言い聞かせたりしたもんだ。
 ここしばらくは落ち着いたと聞いてたんで、もう心配ないかと思うとったんだが、それがひょっこり顔出しよってな。
 それがなあ。いや、もう悪さはしとらんようなんだが、様子が随分変わって。ワシも最初は誰だかわからなんだくらいで。
 最近流行の、ほれ、有機整形言うんか。顔かたちだけじゃなくて、体をあっちこっちいじってとっ替える。ああ、そうそうそれ、あたっちめんと? その「あたっち」も色々入れてるとか言うとった。
 そら、ワシだって平気じゃあない。親から貰った体に傷つけてなあ。ただな、タミの奴、随分大人しくなっとって。あの乱暴者が、嘘みてえにしおらしい物言いなんかするのさ。うん、身なりも態度もきちんとして、いいとこに勤めてるOLさんみたいになって。だからワシも、これが整形のせいならそれもいいか、なんて思ってよ。様子見ることにしたのさ。
 そしたらなあ。久しぶりに来たってのは、やっぱり困ったことがあって相談したかったってんだ。しかもそれが、男のことだってんだから。
 色っぽい話じゃあワシは役に立つまい、と思ったが、男心がどうしてもわからん、なんてあいつがべそかきゃがるもんで。流石に可哀想になって、まあ話してみな、って言ってみたらさ、これが。
 まず男は、あいつの乳が気にいらんというんだ。それも手術で作ったおっぱいだってんだがな。うん、ホーキョー手術ってやつだ。
 確かに大きい方がいいとは言ったが、こんなに大きくなるとは思わなかった、ってんだそうだ。あいつも、大きければ大きいだけ良いだろう、てんでJカップ? だかそんな、とんでもなくでかい乳にしちまったんだな。
 どんな胸って、いやもう、そら相当なもんだて。弾性有機樹脂ってのかい? 柔らけえのに垂れない潰れない新素材とかで、あいつがちょっと動く端からぶるんぶるん震えてさ。こっちがはじき飛ばされそうなくらいのもんで。ワシも男だからでかい乳は嬉しいが、あいつのはこう見てても近寄るのが怖いくらいの代物でな。
 だから言ってやったさ。そらあ男が言うのも無理はない。もうちょっとかわいらしい小振りのに直したらどうだ、てな。
 え? どんなふうにするって、そら、こう、うまいことたなごころに収まって、片手で包んで転がせるくらいのだな……
 げほげほげほ。くぉら、年寄りをからかうなぁっ。
 ま、まあおっぱいのことはいい。ところが、それじゃってんで、次にあいつが言うにはだ。乳だけじゃなくって、他も直せって言われとるんだと。
 どこをって、腰さね。なに、今のあいつはな、ウェストが五十センチきっかりなんだと。
 五十センチて。わかるか? ああ、うちのかかあなんぞ、七十センチをいったりきたりしとる。あれだろ、プロのモデルさんだかでも、普通ウェストは五十七、八センチかそこらだって話だろ。なに、どこで知ったって、そらちょっと前に見た週刊誌にだな――
 んなこたあええわい。まあお陰でタミのやつ、今じゃ見事な柳腰になってるわけだが、それだって元はこうごつい体だったのを整形してるわけだ。腰骨も手術で削ったそうなんだが、ヒップやら肩幅やらは元のまんまなんだな。しかもおっぱいが、さっき言ったとおりJカップってんだから。
 そらあ見事なくびれだが、確かにあんまり気持ちの良いもんじゃないわ。折れそうな細さ、たってほどがある。今の男が細腰を好きだって言ったもんで、タミもそこまでやっちまったんだそうだが、これもやり過ぎだわな。
 うん、ま、一途で素直といやあそうなんだ。だがまあせめてもうちょっと、ほっそりしてるなりにバランスのいい体にしろ、とは言ってやったよ。その方がほんとは抱き心地だっていいんだから、って――
 えっ。いや、その、なに。ほれ、そそそそそそ、うちのかかあだって若ぇ時分はよ――げふんげふん。
 ええ、なんだっけか。ああそうそう、腰はそれでいいと。げほげほ。えーとだがな、腰の話が済んだら、それじゃってんで、その他にもまだ相談がってんだ。今度は顔や体のことじゃないんだが。
 実は、あいつがいつもしてる、真珠のネックレスってのがあってな。そいつを、気持ち悪いから外せ、と男が言うんだと。
 はずしゃ良いじゃないかそれくらい、と言ってやったんだがタミの奴、これだけはどうしても外したくないと言いやがる。何をそこまで気に入ってるんだ、何か特別な品物なのか、って聞いたらだよ。
 あいつの答えには驚いたね。その真珠は、昔あいつが、亀頭に埋めてた代物だってのさ。
 いや、もうサオはとっくにとっちまって、なんだその――まんこに取り替えちまってるが、手術の後記念にってんで、亀頭から出した真珠をネックレスにして、いつも着けてるってんだ。
 そーらあワシだって驚いたし、とても平気じゃおられなんだ。いくらなんだって、ずっとそんなとこに入ってた物を、首から下げてるなんざぁ気色の悪い。
 うひゃあなんでそんなもん、そういう悪趣味なんが最近の流行か――ってぇ、ワシも聞いたらだな。
 いいえこれこそ、と居住まいを正し、タミオは言いおった。
 前性器の異物でございます。


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